ド イ ツ ~ そ の 1

ハンブルグにて

ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州の中核都市カ-ルスル-エ、この町はカ-ルスル-エ城を中心に扇形に町がつくられており、どこから歩いても北に向かえば、必ず城に行き着くことができるというのが自慢である。
ここのビアレストランで二人の女性とドイツ料理の食事をした。一人は大柄の花を大胆にデザインした黒基調のドレスで、黒い靴のおしゃれな地元女性、もう一人ははるばる北のハンブルグから来た女性。
二人は、ドイツの温泉クアハウスで知り合って、もう15年来の友人だと語り、カールスルーエ女性の誕生日にお祝いに来たのだという。
そこでハンブルグは北の海辺の町だから、皆さん牡蠣は食べますか、と尋ねると「勿論です。美味しいドイツ産の牡蠣がありますよ」との答えにホッとした。というのも、この女性に出会うまで、ドイツ人でドイツ産牡蠣を食べる人に会ったことがなかったからで、ドイツでは牡蠣は養殖されていないと思っていた。
 ようやく日程のやりくりして、ドイツの牡蠣養殖場に向かうため、ハンブルグに着いたのは2011年11月。 早速に市内のオイスターバーに向かった。
昔は海辺の倉庫街だった地区を再開発し「Maritim Museumマリーン博物館」を設置した地区、そこに隣接してAUSTER BARというオイスターバーがあるので、勇んで店の前に立ったら張り紙がしてある。「今日は結婚式のため19時まで貸切です」と。残念!!。
ここで19時まで待ってもよいが、それから食べだすと遅くなるので、どうしようかと周りを見回すと、妙に人が大勢いる場所がある。何事かと近づいてみると、ここも昔の倉庫建物を利用した「Miniatur Wunderland ミニチュア・ワンダーランド」で、今やハンブルグの人気スポットなっているところ。
これは昔からよくある「ある地域のミニチュア表示」かと思いつつ、ミニチュアのアイディアは普通の発想だから、大したことがないだろうと入場券12ユーロ支払って中に入ってみた。
入ってすぐに、その思い込みは間違いであることが分かった。倉庫をそのまま使って展示会場にしているので、無造作な内装で、綺麗さという点では劣るが、人が求める本来的な素晴らしさがあると感じる。
その一番目は、入口におかれているパンフレットである。16カ国の言語でつくられているが、その日本語のパンフレットが以下である。

この日本文を読まれて如何ですか。日本語が正確です。果たして日本で同様の外国語パンフレットを作成した場合、この程度の正確さが保たれているか心配になる。多分、日本語を直訳した固すぎる英語になっているのが多いと思う。

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二番目は、ミニチュアの緻密さである。以下の写真をご覧ください。

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これの実物はたった1.5cmの大きさを拡大したものである。アルプスの雪風景ミニチュアを撮影したのだが、屋根から雪下ろししていて、転落した様子がリアルにつくられている。このように細かい部分にも手を抜かず「しっかり」つくられている。加えて、朝昼夜と照明を工夫し、車・列車等がリアルに動き回るので、子供は身を乗り出して楽しむということになる。

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まだたくさん説明したいことがあるが、このくらいにして素晴らしさをまとめると、
① 古い発想だが緻密なつくりで新鮮さ与えている
② 動きがあって面白い・エンターティメント性がある   
③ 入館前に予測する以上の驚き・サプライズがある
という三点になる。
この結果、ミニチュアではあるが、本物としての魅力を感じるので、ここに人が集まることになり、収益が上がることになる。
EU世界で、ドイツ製品のみがよく売れるのと同じ理由ではないかと思う。ドイツの強さの秘密の一旦が「Miniatur Wunderland ミニチュア・ワンダーランド」で理解できたと思う。

ド イ ツ ~ そ の 2

Sylt ズィルト島

ハンブルグ空港からAIR BELIN エア・ベルリンの国内線に乗り、Syltズイルト島のWESTERLANDヴェスターランド空港へ向かった。エアーは12時15分発で13時25分に着く。割合近い。
 ズィルト島の気候はメキシコ湾流の影響を受けた海洋性気候。面積99平方キロメーター、ドイツ最北端の北海の島で、アラスカの南端と同じ位置にある。約8千年前、本土から切り離された。
 幅の狭い所は500mしかなく、何百年の間、島の住民の糧と言えば船乗り、海賊、捕鯨であったが、今では観光が重要産業となって、自然保護に強い関心を持ち、島の半分近くが自然風景保護地区に指定されている。
到着したヴェスターランド空港は、とても小さな空港である。その上、今は観光シーズンではないので、客は少ない。
空港内にさびしそうにポツンと置いてあるパンフレットに島の全景掲載されている。島の上空から撮った写真を示したが、何と例えればよいのか分からない面白い形をしている。
敢えて表現すれば、アメリカ・ニューヨークのロングアイランドみたいだと思う。

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(ドイツとデンマークの境にあるSylt島)

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(Sylt島の航空写真)

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(国境の島だとわかる)

空港から宿泊先のFährhaus Sylt フェリーハウス・ズィルトへ電話すると、すぐに出迎えの車がきたが、驚いたことにドライバーは半そでワイシャツだ。寒くないのか。11月のデンマーク国境の地だ。当方は当然に寒いが、地元なので慣れているのだろう。ホテルは海岸に位置している。フェリーハウスとは簡易ホテルみたいな名前だが、立派な五つ星リゾートホテルである。ドアを開けて入るとそこはフロント、正に満面の笑顔というお嬢さん二人が迎えてくれる。さすがは五つ星、応対が違うと唸る。
この笑顔が素晴らしいお嬢さんが「まだ部屋が整っていません」というので、近くのSolring Museen ゼルリンク ムゼーンと読み、ゼルリングはフリーセン地区であるから、ズィルト・フリーセン郷土博物館と訳すと思うが、フリーセン地方の昔を展示してあるところという意味であろう。
そこが2km先にあり、面白いという説明を受け歩きだす。海岸線を歩くと風が強く冷たい。フードをつける。回りの家の屋根がこのあたりの特徴である。REETという葦草を春に収穫し屋根を葺く。
以下の左写真がこの屋根の家で、右が自宅の屋根裏に保存している葦草だが、この葦草を後ほど説明する牡蠣企業では、出荷する箱の下に詰めて出している。

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寒い中、2km以上歩いたと思うが、ようやくこの博物館へ着き、入ると結構大勢の人がいる。殆ど年配者でリックを背負った一人旅行者もいる。ドイツ語の説明書きでよくわからないが、展示物はかなり充実しているのではないかと感じた。
この博物館内に大勢いたことで疑問をもった。ヴェスターランド空港では客が少なく閑散としていた。観光シーズンではないので少ないと決めつけていたが、この博物館には人が集まっている。ということはズィルト島に観光客が来ているということになる。どうやってズィルト島に来たのだろう。その疑問に対する答えは後ほどお伝えしたい。
博物館からの帰りは、海沿いでなく、一応島内の幹線的な道路を歩いてホテルに戻ると、すぐに部屋に案内された。この部屋、ドアを開けてその素晴らしさにビックリ。また、設備かいろいろあって煩わしいくらいだが、いろいろ触っているうちに何となく部屋が自分に馴染んでくる感じになってくる。この感覚が五つ星のホテルだと再評価する。
夕食は18時にホテルレストランで食べた。まず、ドイツビール飲んで、魚料理を適当にメニューからオーダーしたが、これが絶妙の味。さすがだと思う。
食後、インターネットでズィルト島を調べてみると、博物館での疑問がわかった。この島は大陸と地続きになっていて、列車で島に入れるのだ。なるほど、それで空港に観光客が少ないが、博物館では多かったのか、と思いつつさらに調べて見ると、大陸とは全長約11キロメートル、1927年に完成したHindenburgdamm ヒンデンブルクダムという築堤で結ばれていて、その築堤上を列車が通っている。ということは車では入れなく、車ごと列車に乗って走るという仕組みである。
夜は風呂にゆっくり入って寝た。昼間の散歩が快い眠りを与えてくれグッスリ。

牡蠣養殖場

7時30分にタクシーでホテルを出て、期待の牡蠣養殖場に向かった。養殖企業は
Dittmeyer‘s Austern-Compagnic GmBH ディトマイヤー牡蠣有限会社である。社長は女性。さすがに首相が女性の国だけあって女性が活躍している。
8時少し前に会社に着く。一階はレストランで、二階が事務所らしいが、まだ誰もいないので、レストラン裏の開いているドアから中をのぞくと、作業場と大きい水槽が二つあって、牡蠣が大量に入っている。
そこへ社長が愛犬ココを連れてやってきた。会社の歴史を語ってくれる。30年前に牡蠣養殖をしたい希望をもち、国との交渉を始め、創業は1986年、25年前である。
社長は、学生時代に5年ほどこの会社の仕事を手伝って、その後旅行業界に入ったが、オーナーのディトマイヤー氏から相談受け経営を引き受け、牡蠣養殖の実務は作業しながら覚えたという。今の社員数はレストラン含め10人。
現在、年間100万個80t生産。稚貝はアイルランドから輸入。ブランド名はSylter Royal。ドイツの牡蠣消費量は年間500tだから16%のシェアを占めていることになる。残りはフランスとアイルランドから輸入になる。

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作業場内にある二つの水槽には、一か所あたり2・3万個の牡蠣を入れている。水槽に牡蠣を入れるのは、海水が冷たくマイナス9度から12度となって表面が凍るので、牡蠣は死んでしまうから水槽で保管している。大体5カ月程入れ、重量で70gから90gくらいになったら出荷する。出荷する際のチェック項目は牡蠣同士をぶつけ音を聞いて中味を確認するという。出荷する箱は12個、25個、50個入りの三種類。出荷するまでの牡蠣の生育には3年かかる。
社長が剥いてくれる水槽の牡蠣を食べてみる。素直な味で、後味は甘い。新鮮と感じる。社長が「海の味がしないか」と尋ねてくるが、この地の海についてまだ何も知らないので、具体的な表現は難しいと述べる。但し、味は美味い。剥きながら社長が1986年に東京、2006年は長崎に行ったという。

ド イ ツ ~ そ の 3

社長の車で海に行く。養殖場は事務所から車で10分のところなので8時30分に着く。養殖場の広さは30ha。今は水槽に保管しているので、海に牡蠣は少ない。愛犬のココを連れてきて、ココは海が大好きとのことで走り回っている。
養殖場となっている海はWattenmeerヴァッテン海で、ナショナルパークである。だから環境維持に厳しい条件が課せられている。養殖しているのは、このヴァッテン海の中のBlidselbucht ブリゼルブラト海である。海岸から200mくらいのところに牡蠣棚がある。長靴に履き替えて牡蠣棚までココと一緒に歩く。風は冷たく強い。これが11月普通の気象条件との事。海水温は5~6度。あと6時間経つと満潮になる。潮間差は1.8m。矢印したところがブリゼルブラト海の牡蠣養殖場である。

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以下の写真は社長から送ってもらったもので、今の季節ではないが、このように養殖している。

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向こうに第二次世界大戦時に、独軍の射撃訓練ターゲットとして使われた「海の虫SEE KAŪEC」が見える。これを取り壊すと環境破壊になるのでそのままにしておくのだという。

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牡蠣の出荷は12月と新年前が多く、それと6月から9月のバカンスシーズン。ドイツ国内で80%売る。残りはイタリア、デンマーク、シンガポール、香港、ドバイ、オーストリア、スイス、スペインに出している。
一階のレストランは11月から2月は半分だけ開け、レストランから作業場を見えるようにしている。牡蠣養殖はドイツではこの企業一社のみの独占であり、ドイツのブランドとして紹介されている小冊子をいただく。

この牡蠣養殖場を訪問して一番の特徴と感じたのは、海がとてもきれいだということ。EU連合の規定はドイツ国内規定より厳しいが、その厳しい基準でAの判定を受けている。Aを受けたのはスコットランドとアイルランドとここの3か所だけだという。つまり、出荷する前の精水による浄化がいらない海である。世界でもこのような海は珍しい。それだけにナショナルパークとして環境保護には厳しい規制が課せられているだろう。
いただいた水質基準判定資料とその概略訳文である。
(訳文)
2004年4月29日、(EG)条例No.854/2004,規定II B,項1bとc)による、北フリースランド貝類生産区域に於けるモニタリング2004年4月29日、(EG)条例No.854/2004,規定II Aにより等級付け第42週
1.分類
微生物学的検査の結果により、牡蠣生産区域1及び貝類生産区域11MKB3,5,13,21,22,24,33,36,43ならびにIVMKB61の区域は2004年4月29日の(EG)条例No.854・2004、規定II第2章A,第3項により、生産区域Aと等級付けされました。
”2004年4月29日の(EG)条例No.854・2004、規定II第2章A,第3項により、生産区域Aと等級付けされた”これを文書登録をして下さい。
2.海草に含まれる毒物検査の結果・・・数値は省略
DSP オカダ酸、ディノフィジス毒,ペクテノ毒、アザスピラシド、イェソ毒
ASP ドモイン酸
PSP ザクシィ毒
*検査には海草の全体または部分を使用。
追記:インターネットをご利用下さい。http//www.vet.nordfriesenland.deサイトの食料品管理のページで最新検査結果及びその他の情報が得られます。

(原資料)

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次に感じるのは作業条件が厳しいことである。通常、牡蠣は稚貝を網で育て、大きくなったら次の網に入れて育てる。だが、この海は冬が凍ってしまうので、そのまま海には置けない。冬場に入ると作業場にトラクターで海から牡蠣を移動させ、それを長期間保管することになるが、その作業は大変だろう。

その証明が以下の写真である。事務所の風景が夏と冬では一変している。

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もう一つは、ドイツで唯一の牡蠣養殖場ということだ。これはすごい。国内にはライバルがいないということは、マーケティング上有利であり、これがドイツのブランド品として認定された理由だろうと、それを社長に伝えると、いやそうではない、選ばれたのは「養殖をしっかり・ジックリ続けてきたからだと思う」との回答である。
これになるほどと頷くと、加えて「世界各地で活躍しているドイツ人シェフが自社の牡蠣を指名してくれる」とも言う。確かに、最近、世界各地でドイツ人シェフの人気が出て来ており、その人達からの指名はSylter Royalの評価を高めることになるだろうと思う。

 取材が終り、一階のレストランで昼食を食べようと思ったが、今日は従業員が休みで開かないというので、帰りはヒンデンブルクダム築堤を通る列車に乗ろうと、ヴェスターランド駅までタクシーで戻り乗車券を買った。
この乗車券、各駅停車の鈍行に乗ると5人で34ユーロだという。一人当たり7ユーロ弱だ。安い。一等は一人48ユーロもする。このシステムを利用すると、全国どこでも安く行ける。但し時間はかかるが。乗車券の有効期間は21日間であるから、この期間内なら、途中宿泊しながら何回乗ってもよく、長距離旅行は安くできる。日本のJRには、このようなシステムはない。そういえばフランスにも同様のシステムがある。
ヴェスターランド駅レストランでの昼食、黒人ウェイターが日本人かと聞いてくる。そこであなたはどこから来たのか、と聞くと「トーゴ」との答え。西アフリカから来ているのだ。ヨーロッパは多民族の人々が一緒に生活していると改めて感じる。
 試しに、この各駅停車に乗ってみた。ヴェスターランド駅13時22分発。ハンブルグに16時45分着であるから3時間23分乗ったことになる。やはり各駅停車は大変だ。途中ぐっすり寝てしまった。